マンションを建て替える際の立ち退き料について

マンションの建て替えで住居者に立ち退いてもらう場合、何で立ち退き料なんか払うのか-こうえる人もいる。どちらが得かの問題である。

多少出費が増えても、入居者に立ち退いてもらって建て替えた方が、土地の活用にもなるし、安定した経営につなげることもできる。

 例えば、立ち退きをめぐるトラブルに巻き込まれている経営者がいる。その経営者は「何で、貸す側が弱い立場にならなければならないのか。あくまで争う」と強気の姿勢を崩していない。

たとえばマンションの入居者が意地になって裁判にでもなったらどうか。白黒がつくまで何年かかるかわからず建て替えができない。ヘタをすると10年以上かかってしまうかもしれない。それよりも、立ち退き料を払って、出てもらった方がいい。

入居者はいまの借家法で保護されている。保護されているといっても過言ではない。

意地になって、裁判に訴える人がいないとは限らない。裁判になったら、結論がいつ出るのか、いつ建て替えられるのか、まったく予想だにつかない。費用だってバカにならないだろう。そこのところをよく考える必要がありそうだ。

マンションの建て替えでは、いま住んでいる入居者に、いかにうまく出ていってもらうかが大きなポイントになる。入居者に出ていってさえもらえれば、建て替えはスムーズに進むことは確実である。

マンションの入居者に出ていってもらうには、あくまでも「話し合い」が基本にあることを忘れてはならない。実力行使に出たのでは、入居者の心を逆撫ですることになってしまう。そうなったら解決することも解決しない。泥沼に引きずり込まれるだけである。

建て替えの理由をはっきり説明せよ:入居者の説得には、コツがある。まず、建て替えの理由をはっきり説明することだ。ひとくちに建て替えといっても、いろいろな理由がある。老朽化もあるだろうし、防災上必要な場合もあるだろう。そういった理由を、具体的に、説明することだ。それも、ヘタに隠したりしない方がいい。いい難いことでも、建て替えに関してはっきり説明することが必要である。物事を隠していると、いつかしら耳に入るものである。いつ何時、マンションの入居者の耳に入らないとも限らない。そうなってからでは遅い。腹を割って話すことが大切である。

し合いは、ソフトムードで進めることも必要だ。お互い人間である。立ち退きの問題となると、お互いが構えてしまうケースが多い。肩に力が入り過ぎると、思う言葉だって口にできない。それが、お互いの感情を高ぶらせることにもなってしまう。感情が表に出てしまっては、話し合いも何もない。喧嘩腰で顔をつき合わせているだけだ。そうなったのでは、問題は解決しない。あくまでも冷静に、心を落ち着かせて、対応することが必要になる。たとえば、奥さんに交渉に当たらせるという手はどうだろう。女性だからということで相手の気分をほぐすことにもなるだろう。主人が最初から顔を出してしまったら、感情的になってしまうことが多いのではないだろうか。奥さんのソフトムードが、意外な効果を生むことだって考えられる。

立ち退き料のための条件をはっきり示せ:さて、入居者の最大の関心事は、「建て替えで立ち退くためにどのようなことをしてくれるのだろうか」ということである。マンションの入居者の中には、「立ち退き料が入る」と計算している人もいるだろうし、「立ち退いたあと、住まいはどうなるのか」という不安を抱いている人もいるだろう。そこで、立ち退きの条件を、示してやるのだ。たとえば、立ち退き料の額を明らかにしたり、引っ越し先のマンションに案内したりといった具合である。このとき大切なことは「私には、これしかできません」という意思表示をはっきりすることである。煮え切らない態度でいたのでは、入居者に「ねばれば、もっと何かをしてくれるのではないか」という期待を抱かせることにもなってしまう。最初から、自分の条件を示し、マンションの入居者に判断を任せるようにするのがいいだろう。

それに、話し合いには、時間をかけることが必要だ。立ち退きとなると、マンションの入居者にとっては、暮らしを左右する大きな問題である。短時間できめるといっても、無理である。時間をかけ、根気よく説得することが必要なのだ。その間に、お互いの心がほぐれ、思わぬ結果を生むことだって考えられるからだ。よく「時が解決する」といわれる。人間というもの、時間を与えられると、冷静になって物事が考えられるものだ。気持ちが急いていたのでは、いい結果は期待できない。

また、説得しやすい人から説得するという手もある。マンションの入居者の中には、物わかりのいい人もいるだろう。そういう人に的を絞り、納得して、立ち退きを承諾させることだ。そして、その輪を広げていく。頑固に居すわっている入居者を、孤立状態に持っていくのである。周りの入居者が、立ち退きを承知したとなると、居すわっている人の心だって、不安になるだろう。そこがつけ目である。時期を逃さず、アタックするのだ。案外、すんなり陥落してしまうかもしれない。陥落したらしめたものである。立ち退きを承知したら、文書にして残しておくことが必要だ。

不動産のトラブルで多いのは、「言った」「言わない」をめぐるトラブルである。口約束ほど当てにできないものはない。何も証拠がないから、トラブルにもなりやすいのだ。口約束で苦労している経営者も多い。こんなケースは、いくらでもあるだろう。やはり「約束事は文書にして残しておく」ことが基本である。その文書の中に、立ち退きの日時、立ち退きの条件、金銭の支払い方法などを入れ、入居者の署名捺印をもらっておくことを忘れないようにしたい。この文書が、入居者の心理的な圧迫にもなるだろうし、万が一裁判になったとしても、有力な証拠にもなるからだ。入居者に立ち退いてもらうことができたら、その建て替え計画は、九分九厘、成功したといってもいい。

あとは、どんな建物を、どこの業者に頼んで建てるかである。経営者の思惑次第で、どのようにでも料理できる。建てる建物や住宅メーカー、入居者選び、それに家賃設定などを間違えなければ、マンション経営による建て替え等土地の有効利用が、再度、現実のものになるのだ。