マンション建て替えのメリットとデメリット

真新しいアパートや賃貸マンションが続々と誕生、先行きに暗雲はたちこめているものの、相変わらず「アパートや賃貸マンションで土地活用を」という人は多い。
だが、建ててから数年経ったマンションを持っている経営者は、いま大きな問題に直面している。
入居者のマンションに求める要求は、年々エスカレート、より高級なものを、より個性的なものを、より設備のいいものを、といった具合である。
最近になって建てられたマンションは、こうした入居者のニーズを採り入れているからまだいい。
問題は、古くなったマンションだ。
例えばマンションの建て替えを真剣に考えている経営者がいるとする。マンション経営に乗り出したのはいまから十年ほど前のこと。当時、マンションは、時代の最先端をいくものだった。外壁をブルーでカラーリング、間取りは2DK(二十四世帯)、設備は、住宅メーカーが勧める最高級品を揃えた。
だが、時代は流れ、いまでは、みるも無残なおもかげである。外壁の色はあせ、入居者の半数以上は他のマンションに移ってしまった。
当時としては、個性的なデザインで、設備も一級品を揃えたことから、近所でも評判のマンションだった。ところが、数年前から、近所にモダンなマンションが建ち始め、外観はシャレており、設備なんかもいいものを取り付けてある。入居者が心を奪われたとしても、不思議はない。いま、部屋の半数以上が空いている。ただ建っている、というだけの状態。そろそろ建て替えなきゃとは思うが、こんなにマンションばかり増えて、建て替えたはいいが、入る人がいないというのではなかなか踏み切れない。
マンションが立て続けに建ったため、地域によっては、入居者がみつからず、頭を抱えている経営者もいるほどなのだ。
いざ、建て替えに踏み切ったとしても、問題はいろいろある。もっとも大きな問題が、いま住んでいる入居者に、どのようにして立ち退いてもらうかである。
マンションなどの賃貸住宅に住んでいる人は借家法で立場が保護されている。借地・借家法が改正されたとはいえ、実際に動き出すのは来年以降である。新しい借地・借家法では、貸主の立場を強化している。だが、現時点では、貸主の立場はかなり弱いものだ。現行の借家法で考える限り、建て替えでもよほどのことがないと、立ち退いてもらうのは難しいものと考えざるを得ない。
借家法では、貸主が賃貸借契約を解約したり、契約更新を断わるために「正当な事由」が必要になる。つまり、「部屋を明け渡すのがもっとも」と納得できる理由が必要なのである。
この「正当な事由」というのが、また難しい。たとえば、マンションが古くなったことを理由に、入居者に立ち退きを求めたとしよう。この場合、建物の老朽化が「正当な事由」に当たるかどうかが、決め手になる。
ただ単に、老朽化だけで建て替えるということが「正当な事由」として認められることはないと考えた方がいいだろう。そこには、老朽化と同時に、「どうしても建て替えなければならない事由」が必要になってくる。
それでも、立ち退いてもらえないようなケースでは、立ち退いたあとの住む場所の確保や、それ相応の立ち退き料などが必要になる。
例えばマンションを建て替えたが、入居者に立ち退いてもらうのに苦労したという事例。古くなったので建て替えるから、出て欲しいといっても、入居者は納得しない。何しろ、住む場所を確保するだけでも大変な世の中。全世帯の引っ越し先を世話するというわけにもいかず、経営者はいろいろな人に相談するも『立ち退き料を払うよりほかにない』という結論になる。立ち退き料を最初は、マンションの家賃一カ月分位を考えていたが、詳しいものに聞くとそれでは無理ということであり、一世帯当たり百万円まで払うことにした。総額で一千万円。大変な出費。でも、建て替えができなければ何もならないため支払った。
こんな具合である。一世帯百万円、口でいうのは簡単だが、いざ払うとなるとかなりの金額である。いつまでモメていても仕方ないので立ち退き料を払って出てもらえるんなら、それでいいという考えだ。